会長挨拶

会長 市川  顕
(東洋大学)

 政策情報学会第19回定期総会において、第六代の会長に就任いたしました、東洋大学国際学部の市川顕と申します。加藤寛先生(慶應義塾SFC創設者)、第一代会長の井関利明先生(私が慶應義塾大学総合政策学部入学時の学部長)をはじめといたしまして、多くの皆さまの思いを引き継ぐという重責を強く感じる次第です。
 私は政策情報学会での活動において、多くの知的刺激を受けてまいりました。入会当時は大学院生で、EU拡大が中東欧諸国に与える影響、具体的には加盟候補国であるポーランドにおける、EUの環境アキ・コミュノテール(法体系)の受容に関する政治過程の研究をしておりました。二年間の在外研究などを経て、私は「政策の多面性」を痛感しました。EUとしては加盟候補国に自分たちの法体系を受け入れさせなければならない。しかし加盟候補国にはそれを受け入れる行政能力も資金も足りない。そのせめぎあいのなかで、1989年の東欧革命から15年経過した2004年にようやくEUの第5次拡大が実現しました。
 このような研究背景から私は、研究をEUの環境・気候変動・エネルギー政策/政治にシフトしつつ、政策をめぐる政治、政策のおよぼす影響の多面性、に関心を深めてまいりました。
 さて、政策情報学会でのこれまでの議論を踏まえ、研究遂行上の重要な点を挙げると以下のようになると思います。
 第一は、政策はマルチディシプリナリーなものであるということです。私の研究分野である環境・エネルギー問題では、経済、福祉、運輸、財政、など多岐にわたる政策部門との協調が必要となります。そしてこれを担保するのは、政治的意思ということになります。
 第二は、政策のPDCAの過程においては、マルチアクターの参加が不可欠であるということです。形式的にマルチアクターを参加させるだけではなく、民主主義(さらに言えば社会)の成熟をともなって効率的・効果的な参加とアカウンタビリティが必要となります。
 第三は、政策形成における情報の役割の検討です。BREXIT、トランプ政権樹立など、SNSをはじめとする情報の多層的な流通と、真偽不明な情報との格闘、が必要とされています。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以前から、中東欧諸国は偽情報対策に腐心してきました。私の理解では、情報とは社会的に構築されるものです。情報の裏にある意図を読み取り、真偽を検討すること。情報と政策の関係性の検討が今一度必要となります。
 本学会は多くの専門領域を備えた研究者や、政策の最前線の実務家、そしてNPOなどに従事されている方も会員として活躍されています。多層的(マルチレベル)で、多領域的(マルチディシプリナリー)で、多様なバックグラウンドをもった(マルチアクター)多様な年代(マルチジェネレーション)の会員による、一つの研究「フォーラム」として、本学会が更なる飛躍を遂げ、政策形成・実施・評価・改善のためにオープンな議論ができるよう、そしてその知見が実際の政策に実装されますよう、学会の発展のために微力を尽くしたいと思います。
 会員の皆様のご協力とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

歴代会長

氏名(※役職は就任時) 任期
初代会長 井関 利明(千葉商科大学) 第1期:2004年11月-2006年11月
二代会長 仲上 健一(立命館アジア太平洋大学) 第2期-第4期:2006年11月-2012年12月
三代会長 中道 壽一(北九州市立大学) 第5期-第6期:2012年12月-2016年12月
四代会長 竹下  賢(関西大学法科大学院) 第7期:2016年12月-2017年7月
(会長代行) 若井郁次郎(大阪産業大学) (残任期間:2017年7月-2018年12月)
五代会長 若井郁次郎(モスクワ州国立大学) 第8期-第9期:2018年12月-2022年11月
六代会長 市川  顕(東洋大学) 第10期-:2022年11月-
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