会長挨拶

会長 井関利明
(慶應義塾大学名誉教授)

 21世紀に残された難問題に対処し、新しい政策提言をするために、「開かれた対話と創造の場」をつくることになりました。そこから四方八方に議論が噴出し、さまざまな問題解決策や政策提言が繰り返される学会とは、一方で対立し、競合する議論と作業の場であり、他方では、異質な立場を誘い込み、新しい問題領域へと越境する遠心力の働く場でもあります。
 伝統的な学会は、往々にして、他分野との境界線が明瞭であり、内的整合性を高めるために、メンバー同士が価値と規範を共有し、権威と求心力が働く集合体であったようです。ときに、自分たちだけのジャーゴンを語る「ジャーナル共同体」などと揶揄されることがありました。とすると、旧来の学会とは異なる方向を目指すものが、われわれの新しい学会でなければなりません。
 いずれにせよ、今日の複雑かつ多元的な難問題をめぐって、的確な問題解決法や政策を提案し、実行し、評価するためには、専門閉塞型の個別科学をこえた超領域的あるいは諸科学横断的な「知と方法」の開発・創造が必要不可欠です。政策と情報との関連をめぐって、さまざまな分野の研究者たち、そしてさまざまな立場の実務家たちが寄り集まってくる「知的刺激に充ちた楽しい場づくり」を心掛けたいと思っております。
 第1回総会で、ご推薦を受け、会長に就任いたしました。会員各位のご協力とご支援を、切にお願いする次第です。

「政策情報学会」の発足に寄せて

 21世紀の今日、人類は大きな課題をかかえています。それは、自然環境、社会、文化、経済、科学・技術と人間との関わり合いを再調整し、あらためてつくり直す作業です。グローバライゼーションのなかでの民族間、文化間、宗教間の対立と紛争問題も忘れてはなりません。いいかえれば、一方で多様性と異質性のなかに「共生と協同と参加」を確保し、他方で「個別の可能性」を開発する、という課題でもあります。
 20世紀の科学・技術は、人類に大きな成果をもたらしましたが、同時にいくつものかつてない難問題を生みだすことになりました。今日の複雑かつ多元的な難問題に有効に対処し、的確な問題解決策(政策)を提案し、実行し、評価するためには、これまでのような専門閉塞型の個別科学をこえた、超領域的(Trans-disciplinary)あるいは諸科学横断的(Cross-disciplinary)な「知と方法」の開発・創造が必要不可欠です。こうした社会的要請に応えようとするのが、まさに「政策情報学」なのです。[21C の難問題解決と超領域的アプローチ]

 人間は、「政策的動物」(Policy-driven or-oriented Animal)である、といわれます。外部環境に対してもっぱら生得的適応様式にもとづいて対応する他の動物と異なって、人間は、自己意識をもち、さらに時間・空間意識を働かせて、外部環境を選択的に認知し、分析し、再構成しています。自らのおかれた環境に不満を感じたり、問題を見つけ出したりして、よりよき関係を求めて外部環境を変え、あるいは自らを変えようと行動を起こすことは、人間に特有のことです。そこに介在し、媒介するのが、他ならぬ情報と言葉です。この「情報と言葉による予見をもって、計画した行動」こそが、まさに一般化された(Policy) そのものです。とすると、政策とは、必ずしも政府や行政にかかわるとは限らないのです。それは、外部環境との相互作用あるいは外部環境への関与(介入)行動であると同時に、自己変革、自己再組織化の行動でもあります。こうして、行動主体が、個人であれ、集団・組織であれ、自治体・政府であれ、環境との相互作用と自己再組織化を目指す計画された行為(つまり政策行動)は、次なるよりよき関係を求めて、たえず発展的に繰り返されるスパイラルな行動連鎖なのです。[政策動物として人間−一般化された政策]

 その過程において、行動主体は、自らの存続と発展のために外部環境から状況や事物・現象についての「情報」を得て、これを識別し、評価し、組み合わせて、対応のための行動を計画します。この際重要なことは、不確かさを減少させ、より有効な行動選択に役立つ情報を獲得するため、そして、その行動成果を広く伝達し、評価を受けるために、どのようなメディアや技法を活用して、どのような情報を収集・分析すべきかであります。その意味で、政策行動と情報は不可分な関連をもつものです。[政策と情報の不可分性]

 また、「政策情報学」は、ひとつの学的コンテクストと考えることができます。つまり、特定の問題に焦点を当てたとき、その解決のために、さまざまな分野(個別科学)から概念、モデル、理論を借用、導入して、組み合わせ、新たな意味と関連を与える枠組み、それこそ「コンテクストとしての政策情報学」なのです。つまり、問題解決に焦点をおき、従来の個別諸科学の成果をコンテンツとしてとり入れながら、組み合わせ、新しい意味関連の構図を創りだす働きが、「政策情報学」であるといっていいかもしれません。それは同時に、新たな知的再編成の場であり、背後でその場を支えるインフラが、他ならぬデジタル・ネットワークなのです。[コンテクストとしての政策情報学]

 以上の諸点を考えて、新たに知的創造のための出発点として、ささやかな「対話の場」を用意してみました。そこから四方八方に議論が噴出し、さまざまな政策提言が繰り返される学会とは、一方で、対立し、競合する議論と作業の場であり、他方では、異質な立場を誘い込み、さまざまな問題領域へと越境する遠心力の働く場でもあります。従来からの学会は、往々にして、境界線が明瞭であり、内的整合性を高めるために協力する、求心力が働く集合体であったように思われます。とすると、旧来の学会とは異なる軌道を進むものが「政策情報学会」でなければなりません。[開かれた対話と創造の場]

 最後に、「旧来の個別科学」と「あるべき政策情報学」のイメージを対照表にまとめてみました。